「M字カーブは解消したか?」

政治経済学部3年 山田麻未

女性の年齢別労働力率を示すグラフは、出産や育児で職場を離れる女性が多いことからM字型をしている。M字型カーブといえば、子育て期にも就業継続を希望する者が多いが,実際は,就業できていないという問題を表すものである。

その女性の労働力率の特徴とされるM字カーブの30代の子育て期にあたる底の部分が近年上がってきている。

果たしてそれは、ワークライフバランスの達成がなされたことを表しているのだろうか。

女性は人生設計するに当たって結婚や出産、育児、介護などを考慮するもので、離職するか職場にとどまるか、職場復帰をするか家庭にとどまるか・・・を決定する際、本人の学歴、自立意識、家族構成などさまざまな要因が働くが、最終的な決定は「夫の収入」という経済要因が強い。
女性の学歴の高さは、有業率と必ずしも比例しない。大卒女性はほぼ大卒男性と結婚する。高学歴男性は経済的にゆとりのある階層に属することが多いから、結果として高学歴女性には「無業の妻」が多くなる傾向がある。これは、女性の再チャレンジ支援策検討会議による「女性の再チャレンジ支援策の基本的方向」において、「高学歴の女性ほど再就職の率が低い」と述べていることからも分かる。
さらに、ライフコースパターンの選択には、「夫の所得」というフローだけでなく、「親の資産」というストック要因も関与している。両方の実家からの援助を得られず、フローの面でもストックの面でも夫も妻も不利な立場にあるのが、「中断―再就労型」である。妻の再就労動機の多くは、夫の収入を補う「家計補助」動機であるが、妻を被扶養家族に留める上限である「100万円の壁」のせいで、「家計補助」収入は、世帯年収の25%に満たない。
そして、1、「専業主婦型」は、夫のフローもストックも恵まれた経済階層に属する女性層、2、「就労継続型」(=専門職の女性が多い)は、妻がストックの上で恵まれた経済階層の出身で、夫とのダブルインカムでフローのゆとりを得ている層、3、「中断―再就労型」がストック面でもフロー面でも恵まれない層ということになる。女性の労働を経済ファクターからみると、「働かなくてもすむ人は働いておらず、働かざるを得ない人は働く」という女の間の格差の現状が見える。

つまり、夫婦共働きが否応なしに求められる今日、M字の底が上がった原因として、「働かざるを得ないため働く」層が増えたと考えられる。そして、M字の底にいるものは「働かなくてもいい」層、専業主婦であれる勝ち組主婦であるとも考えられるのだ。

要するに、M字型カーブがあらわす問題の質が、「女性にとって就労の継続が困難であること」を表していたのが、「女性間格差」へと、「女性の社会進出」をめぐる問題が変容しているのである。

社会制度の要請としてはもはや家庭だけにいられては困る状況であり、否応なしに共働きを選んでいる世帯も多い。そこにおいてはかつて問題とされた専業主婦は今や望んでもできないかもしれない、肯定的な選択肢となる。特にボランティアなどが活発化している今日では、「専業主婦の社会進出」の場などいくらでもある。つまりかつて問題化された専業主婦は、「会社へ」進出をしなくなっただけであって、家庭と同時に、他の場所にも「できるときにできることをやる」という形で参加して社会進出を果たしているのだ。そのために、むしろ今日では肯定的な選択肢ですらある。

ここまでから目指す方向性として、女性の家庭と育児の両立を支援するためには、女性が出産や育児のあとに1、雇用の場への再参入がスムーズにできるようにすること、2、女性間の格差の解消、具体的には社会保障による再分配が必要であると考える。