「迫り来る危機」

法学部1年 小倉勇磨


現代という時代の特徴はグローバリゼーションという言葉が良くあらわしている。航空・海運・情報などさまざまな分野における技術革新によってモノやヒト・金・情報の行き交いが活発化し、国際経済競争が激化した。世界経済も大きく成長し、年率3パーセント以上という高い経済成長率を記録するに至った。特に近年は中国やインドなどの新興国が10パーセントもの経済成長率を記録するなど、国際社会はまさに経済成長の時代であるということができる。
私の理想とする社会は、人々が各々の生命・生活を、今後長きにわたって守り、そして発展させることのできる社会である。だが今日の社会状況の下、このような私の理想を脅かす、大きなリスクが発生している。それは地球温暖化問題である。というのも地球温暖化問題はこの私の理想を脅かすような大きなリスクを生み出すからである。
人間が生命を維持し、生活をしていくためには、食べることが必要であるが、食糧安全保障にとって、地球温暖化は大きなリスクを引き起こす。現在、我が国は少子高齢化傾向にあるものの、世界的に見れば、人口は増加傾向にあり、中国などでは今後十数年の間に現在の13億人から16億人前後まで増加すると考えられている。このような時代に、地球温暖化によって生じる気候変動や砂漠化によって、食糧の収穫量が減少すれば、食糧安全保障上の大きな問題を引き起こすと共に、需給関係の変化により、食糧の価格は跳ね上がるだろう。実際に1981年から2002年までの間に、温暖化によって小麦、大麦、トウモロコシという世界の食糧の大きな部分を担っている穀物の生産量の合計は、毎年 4000万メートルトンも減少している。このことが人々の生活に与える影響は計り知れない。特に食糧自給率の著しく低い我が国にとって、この問題は重要である。食料の安定供給を維持するためにも地球温暖化問題は解決しなければならない。
また、食糧と同様に水の問題も発生する。地球温暖化によって降雪量が減少し、氷河などの融解を促進するからである。事実、アフガニスタンにおいて水不足による生態系難民が大量に発生する可能性が高いこと、東南アジア・南アジア・中国などでは、2057年頃にヒマラヤ山脈の氷河は消失し、ヒマラヤ山脈を水源とする9つの大河、その流域の13億の人間に多大な影響が出る可能性が高いことなどが指摘されている。また、水資源をめぐる紛争が激化することも免れない。現在では、たとえばイスラエルとシリア間でゴラン高原返還問題が争われているが、この交渉が難航している理由は、イスラエルゴラン高原に自国の水資源の30パーセントを頼っているからである。また、チグリス・ユーフラテス川の上流での、トルコのダム建設ラッシュによって、川の水位が下がり、このことに対して下流イラクやシリアが抗議を行っており、水をめぐる争いが紛争に発展する可能性は高い。
直接的に人間の生命を脅かす問題として、疫病の流行などの健康に対する被害や異常気象なども挙げられる。疫病としては、マラリアの流行が考えられる。気温が上昇することによって、亜熱帯でしか生息しえない、マラリア原虫を媒介するハマダラカが日本でも生息できるようになるからである。また、異常気象の影響も大きい。近年、九州地方や新潟などで集中豪雨による被害が相次いでいる。また、米国で発生するハリケーンの数が増えていることも地球温暖化が原因と考えられている。また、これらの問題は直接的に人間の命を脅かすものであるが、食糧安全保障への影響も非常に大きい。特に我が国が穀物などを大きく依存している米国では、ハリケーンによる農業への被害も大きいのである。
これら多くのリスクを引き起こす地球温暖化は何故発生するに至ってしまったのか。先に現代はグローバル経済競争が激化した時代であると述べた。問題は、この経済発展がエネルギー資源の大量消費と表裏一体のものであったということだ。このことが地球温暖化を引き起こしたのである。本来エネルギー・経済・環境の三者(=3E)は同時に達成されなければならない。しかし、経済成長ばかりを重視し、エネルギーを大量に消費した結果、地球環境に対して大きな負荷をかけるに至ったのである。私は。本コンテンツにおいて、この3Eの同時達成を達成するにはどうすればいいのか、その方法を模索してゆきたいと思う。コンテンツ第一弾の今回は、地球温暖化の原因である、国際社会のエネルギー情勢の分析を行い、次回にその分析を踏まえ、現在行われている政策に対する分析を行い、それを補う形で自らの政策を提言したいと思っている。




現状分析〜国際社会のエネルギー情勢の動向〜
先に述べたように、今までの急速な経済発展はエネルギー資源の大量消費によってなされており、その結果地球温暖化問題が発生している。そのため、政策の分析を行う前に必要なことは、各国のエネルギー使用量や今後の動向などについて分析することである。従って、国際社会の中でもかなり急速に経済成長をしている中華人民共和国のその経済成長の構造と、今後の国際社会全体のエネルギー情勢について分析することとする。



a、中華人民共和国 
現在、国際社会においてすさまじいほどの経済成長率を誇るのが中国である。2006年には年率経済成長率10,7パーセントを達成し、この傾向は今後もしばらく持続し、今後もこの傾向は持続すると考えられる。中国の経済成長にはいくつかの特徴がある。①工業化の加速②都市化の加速、である。これらの要素とエネルギーの関連について、まず①についてだが、現在中国における第二次産業の割合は2005年時点で47.5パーセントを占めており、「世界の工場」といわれている。経済における工業の割合が高いということは、すなわち化石燃料の消費量も多くなるということであり、環境への負荷はそれだけ大きくなる。②について、中国では1980年代以降、上海などにおいて急激な都市化が進行している。都市化の過程において道路などの社会インフラの整備が進み、職を求めて人が大量に流入するために人口が増加し、自動車を利用する人も多くなる。近年、中国における自動車所持台数は急激に増加している。今年六月末における自動車保有台数は1億5000万台を突破しており、昨年の保有台数と比べて5パーセント以上も増加した。乗用車に関しては10パーセント以上も増加した。(自動車には乗用車だけでなく、バイクなども含まれる。)このことが環境に負荷をかける要因となっている。
 このように現在中国経済は発達途上にあり、今後更なる都市化や工業化、インフラ整備などが進むことによって、化石燃料の使用は今後も増加を続けていくと考えられる。実際にIEAの「World Energy Outlook 2004」では、中国の一次エネルギー消費量は2002年から2030年にかけて現在の2.0倍に増加すると予想している。そして中国の一次エネルギー使用量は国際社会の中でもかなり大きい。2004年時点での世界の石油消費のシェアにおいて、中国はアメリカに続いて、第二位を占めており、その使用量は世界全体の石油消費の1割近くを占めている。



次に国際社会全体の動向について考察する。


b、国際的な動向
中国を筆頭に現在世界的に見ても化石燃料の使用量は増加している。先ほどの「World Energy Outlook 2004」では2002年から2030年にかけて世界における一次エネルギー消費量は現在の1.6倍に増加すると予想している。この増加の最も大きな要因はやはり中国やインドなどの新興国を含めたアジア地域のエネルギー使用量の急激な増加である。このIAEの調査において、中国が2,0倍、日韓を含めたアジアでの増加量が1,8倍となっている。だが一方でその他の中東、アフリカ、OECDなどの地域における増加はほぼ腹ばいであり、国際社会における化石燃料の需要増加の最大の要因は、アジア地域の需要増であるといえる。アジアにおいてエネルギー消費量が急増すると見込まれているのは、やはり中国の例に見られるように今後の経済発展によって都市化や自家用車の使用が増えると予想されるからであろう。



今回は地球温暖化の原因である、エネルギー消費の構造について分析した。では現在、この現状に対し、どのような政策が取られているのだろうか。次回は政策について分析を行い、私自身もこの問題に対する政策を提示したいと思う。