「戦略的互恵の背景とは??」

商学部三年 柳毅一郎


安倍晋三首相は靖国歴史認識に対する自らの情念を抑制しつつ、中国との「戦略的互恵」関係の地平に踏み出している。「戦略的互恵関係」とは共通の戦略的利益に立脚した互恵関係をつくることである。なぜ安倍首相は自身の情念を抑え、自身の支持層とは方向性を隔ててまで中国との関係構築を築く必要性があるのだろうか。その背景を取り上げてみたい。 

キーワードとして挙げたいのは盛んになる世界のリージョナル化の流れである。 
 
欧州・米州とも、国を超えた地域主義に基づく地域共同体が存在し、進展している。現在の地域共同体とは、従来の自由貿易主義、ブロック経済とは違う、新しいバランス感覚を持った制度・経済共同体である。
 ここで、EUNAFTA,東アジア(ASEAN+3)の三地域を考えてみると、世界のGDPのほとんどはこれらの地域に集中している。2000年の世界のGDPに占める各地域のシェアはNAFTA35%、EU25%、東アジア23%で、これらの三つの地域に世界のGDPの83%が集中している。1980年における各地域のシェアはNAFTA27%、EU29%、東アジア14%で合計70%であった。
 FTAEPAなどに基づく地域グループでは、域内に関しては自由貿易を推進するが、域外に対しては保護的になる。しかし、域外とは完全に関係を遮断するのではなく、ある程度の開放的な経済関係を、バランスを持ちながら進展させる。
 しかし、問題もある。このような世界的な「地域共同体」に向かった動きによって、日本が大きく経済的被害を被る可能性があるのである。それは日本含めたアジアには地域共同体というものが存在していないからである。
地域共同体の基本的性質は、域外よりも域内を優遇し、域外に対してはどうしても経済面では排他的にならざるを得ない。そうなると、地域共同体を持たないアジアは、地域共同体を既に形成しているEUNAFTAからの営業対象エリアとなりうるが、一方、アジアから欧米の地域共同体エリアへ参入することは難しい。  
それも、日本のように産業競争力を保持し、輸出する力を持つ先進国ほど、経済的損失を被る度合いは大きい。これはビジネスの面で明らかに不利である。事実、アジア地域との関係回復は日本財界の強い意向でもある。「日中首脳会談をやったことで、安倍政権の役割の半分は終わった」財界からはこんな声が漏れているという。この点から言えば、早期にアジアにも地域レジームを作るべく日本がリーダーシップを取ることは必然となる。

つまり、安倍首相の行動の背景とは、一点目として、中国を中心とするアジア地域のプレゼンスの上昇を見込み日本が関係構築(信頼醸成)をする必要があること。二点目として資源の少ない日本は平和と安定において、貿易面からいっても近隣の経済圏からはみ出るようなことはすべきではない。ということが挙げられるだろう。

首相就任後、中国と戦略的互恵関係を打ち出した安倍首相。しかし、世間を騒がせている支持率の動向によっては、方針の転換を迫られるかもしれない。ただその際には自身の外交成果を台無しにしてしまうというジレンマを抱え込んでいる。

七月には、参議院選挙が行われるが、その際には日本の外交方針はいかにするのか是非争点としてあげていただきたい。