「ロハスを問う」

政治経済学部二年 山田麻未

LOHASロハス)という言葉を聞くようになったのは3年ほど前のことからであろうか。Lifestyles Of Health and Sustainabilityの略であるLOHASとは、端的に、
・健康的な暮らし
・自然環境への配慮
・五感を磨く
・古いものと新しいもの
・つながりを意識する
・持続可能な経済
で説明される。(ソトコト2005年8月号)

「オーガニック・フードを食べ、ヨガやアロマテラピーをたしなむ」なんて姿は「オシャレ」であり、カルチャー誌やファッション誌でもそのロハススタイルが注目されている。そういえば私がフジロックに行ったとき、NGO村なんてものがあった。周りの忙しい環境から一線を画し、優雅に自分の時間を過ごし、地域や環境のために活動するなんて、なんとも健やかでオシャレではないか!!

企業もこのように市民に浸透したロハス志向を見逃す手はない。
スローフードや無農薬野菜は今はやりのデトックスやダイエットと共にとても重宝がられているし、先に挙げたようにロハスな生活は雑誌によく取り上げられている。お洒落なカフェや百貨店ではオーガニックを意識した食べ物を出す。

このように流行のロハスだが、ビジネスととても相性が良く、企業にとっても大きなメリットがあるのだ。
我々消費者が商品を選ぶときにCSRを考慮するようになり、企業はそのイメージ戦略のためにCSRを行なう必要が出てきた。しかしそれは単なる負担には終わらない。ロハスを志向する人たちは、自分の価値観に合う商品なら、多少高くても買ってくれる。ゆえにその層をターゲットにすれば企業は低価格競争に巻き込まれることがないのだ。

また、今新たにロハスマーケットのターゲットとなっている層として「ポピュリッチ」と呼ばれる人々がいる。ポピュリッチとは、日経MJと日経産業消費研究所が定義した、新富裕層を指す名称である。オールドリッチ、いわゆる富裕層は金融資産1億〜5億円を持つ世帯のことである。一方ポピュリッチとは、金融資産3000万〜1億円の新富裕層のことである。消費意欲旺盛かつ高感度、収入も高くキャッシュリッチなポピュリッチはロハスマーケットの受け皿として大きく注目されている。


しかし、このロハスマーケットを大きく発展させたところで、我々のロハスな生活実現へとつながるのだろうか。
富裕層が1.7%だったのに加え、新富裕層も20%にすぎない。彼ら向けの「マーケット」と同時に、「貧困層」向けの「マーケット」も同時にある。
また、「自然と共存」だとか「人々の絆をとりもどそう」とか「グローバリゼーションに抗せよ」とかは聞こえがいいし、もっともである。しかし、自然と共に生きると言っても、私たちは本当に利便性を捨てて自然と共生できるのだろうか。携帯電話もインターネットもコンビニもない世界に生きることができるのだろうか。本当に大自然の中で生活できるのか。グローバリゼーションは止まるのか。そりゃぁ誰だって有機野菜で手作りの料理食べてゆっくり自然と戯れたり社会でいろんなコミュニティを持って活動してみたりしたい。だけど普段は働かなきゃいけないし、オーガニック食品だとかロハスな商品こそ高いし・・・。

もし、ロハスが忙しい日々の中の束の間のゆるやかなひと時、普段慌しく過ごしていることで得られる収入による特権だったら、スローの実現はファストありきに過ぎない。「自然に生きよう」と「頑張る」姿はなんと不自然なのだろう。ロハスの実現がマーケットによっている以上、ロハスはファストの裏返しであり、ファストなしのロハスを実現したい人々は「年収が少なくてもスローに生きよう」と折り合いを付けるしかないのが現状なのだ。

市場の空間はその発展によって環境破壊、労働問題、貧困など多くの負の側面が露呈し、ほころびは隠せない。それによって暮らしにくさを感じた人々はロハスな生き方を求める。しかし、ロハスが重視する環境や風土・習俗、人間関係などは市場空間の発展により壊され、取り戻そうとも我々が利便性を捨てることはとても困難である。どちらを取っても私たちの望む「ロハスな生き方」の実現は到底不可能である。

そこで、「より快適に」我々が過ごしていくために、市場と「ロハス」のどちらか一方に限ってしまうのではなく、両者の良い所取りを志向してはどうか。

その萌芽として、各地で見られている動きがある。
例えばボラバイト。ボランティアを兼ねたるバイトのことである。農家や牧場で食事・宿泊の提供を受けながら、仕事のお手伝いをするというものである。遊びともバイトともつかないボラバイトは人気を博している。
また、例えば、コレクティブハウスでの共同生活の試みがある。阪神淡路大震災の経験から、孤独なお年寄りの交流を進めるべく始まったこの活動は、共同空間によって住人が顔の見える関係となり、共助しあう。
他にも、地域通貨によって、保育から除雪などその地域で求められるも、既存の通貨ではやり取りしにくかったサービスの交換を促進する試みがある。それは結果的に地域内のコミュニケーションを高めていく。
また、スローマップ・グリーンマップやグリーンツーリズム、棚田オーナー制なども流行っている。

また、企業の社会貢献活動もこれまでとは異なった動きがある。
これまでだと、本業と関連する施設、問題に対する企業による一括の寄付、施設建設などが主だった。例えば教育関連の企業が教育関連施設に寄付をするなどである。
しかし、新たに、企業の宣伝・イメージアップとは切り離された貢献、社員個人の自主性に基づくボランティアを応援する形の社会貢献活動がある。
例えばボランティア休職制度。採用団体によってボランティア研修のための休職を認めるものから、休職中も給料を支払われる場合までその運営は幅広いが、富士ゼロックス日本IBMなど私企業から、足立区などの自治体でもこの制度を導入している。
また、マッチングギフト制度というものがある。これは、社員が個人的に寄付を行った場合、それと同額の寄付を企業もするというものである。この制度は三菱電機リクルートソニーなどで実際に採用されている。

利便性を捨てて原始に戻るわけでもなく、市場空間の発展によって失われたロハスを取り戻す。しかしそれは失われたものを取り戻すために何かを犠牲にして「頑張る」わけではない。実用性や学び、遊びといった動機から個人がその活動を促され、問題を解決すると同時に我々に快適な生活をもたらすのだ。コミュニティや環境の諸問題解決が単なる憧憬でも、困難や苦労を伴うものではなくなる。
こういった動きは、楽しいスローライフ実現の兆しとして大きく注目できるのはないだろうか。