「動き出した資源戦略」

理工学部3年  境基輔


原油価格の高騰。ガソリン代の引き上げ。およびバス運賃値上げ。今やエネルギー資源や希少金属資源をめぐった争奪戦が再度過熱していることは、日常生活においてその変化を肌で感じることが出来るようになったのではないだろうか。

今年の6月あたりに見られた原油価格の高騰を皮切りに、多種にわたり資源価格は上昇を続け、この資源価格の高騰は日本国内にも影響を及ぼしている。
近年、エネルギー資源や、レアメタルといった日本の産業をかげながら支える希少金属も鉱物種によっては3倍から10倍以上もの価格変動を見せている。この価格の高騰を引き起こす要因として挙げられるのは、資源が特殊性を孕んでいる事と、これまでの世界情勢が大きく変化していることが挙げられる。資源の持つ特殊性とは資源の枯渇性、資源の地政学的な偏在性、国際大資本(メジャー)による寡占支配、地球環境への影響の4点である。
グローバリゼーションの下、地球上の資源の需要供給バランスが変わった。つまりはBRICsと呼ばれる国々の存在である。中国を筆頭に諸国では、海外から資源を輸入し自国内での資源消費量が増加し、先進国に追い越す勢いで目まぐるしい経済発展を遂げている。これまで資源の輸出国であった諸国が輸入国へと転じた際、需要と供給のバランスが崩れ、価格の急騰を引き起こしたのだ。
こうした世界情勢のあおりを受け、日本も高度成長期を経て、二度の石油危機を乗り越え、経済大国に上り詰めた1980年代以降のような『必要な資源はお金さえ出せばいつでも手に入れることができる』というような考えは通用しなくなっている。これまでのような資源は市場でいつまでも簡単に調達できるといった市況商品扱いを改めなくてはならないのは明らかであり、その姿勢も近年改めはじめた(改めさせられたといったほうが適切かもしれない)。
これまでの日本の資源戦略は海外資源の加工による貿易立国を標榜してきたにもかかわらず戦後から今日に至るまで長期的な資源戦略といえるものは十分ではなかった。国際大資本の再編と寡占化が進み、中国を始めとして急成長を遂げつつある国々による資源争奪戦といえる様相を呈してきた現在、日本経済の持続可能な発展のためには必要不可欠な資源の重要性を認識しなければならない。

2006年9月ようやく日本は重い腰を上げ動き始め、経済産業省が来年からレアメタルの安定供給へ向けての総合政策に着手を始めた。

この総合政策は3つの柱を持ち、これまで備蓄をしてきたレアメタルの貯蓄量の再検討、廃棄された電子機器から効率よく回収できる技術を開発するなどリサイクル制度にメスを入れる、似た機能を持つ代替材料をつくり、輸入に頼らなくても生産可能にすることが掲げられている。

1つ目に関しては鉱物によっては国際価格が3年で一時10倍にまで急騰しており、需要逼迫に対応する必要となる。またレアアースは偏在性を持つために画一的な備蓄ではなくそれぞれの性質を見極めたうえで検討しなければならない。
2つ目のリサイクル事業は、これまでの一部業者が電子機器を手作業で解体し、高温の炉で溶かして金属を取り出す事業では採算が合わず銅や金以外はほとんど再利用が進んでいない現状があった、それに対しこの政策では来年度から4年かけて非金属メーカー大学と研究を進め、希少金属のリサイクルが採算に合うような技術を開発する方向性を示した。その後電機業界にも呼びかけ、民間主導で本格的なリサイクル体制を築く計画である。
3つ目は官民共同でプロジェクトを立ち上げ、ナノテク技術や高性能コンピュータによる最先端解析技術などを使って、希少金属を代替できる素材を探す。
 
この政策がこれからの日本の資源戦略のすべてではないが、ようやく日本は持続可能な社会構築を目指し長期的な視点の下、資源獲得や国内における循環サイクルシステムに着手し始めたように思える。20世紀から引き継いだ大量生産大量消費大量廃棄による資源の見境のない消費が実際に資源の枯渇という問題から限られたパイをいかに生かしていくかといった長期的な戦略が今試されることとなる。まだまだ21世紀の資源争奪戦が始まったたばかりだ。