コラム『若者と金融』

政治経済学部二年 片桐悠貴

 近年、若者の間で金融業界が一つの憧れの的となっている。ネット株をたしなむ大学生は数知れず、就職に際しても〝外資系金融〟という一つのジャンルが形成され、特に野心家の若者を吸収しているようだ。なぜ金融業界がこれほどまでに人気を博しているのだろうか。理由を三つほど推察してみた。


一つには、日本経済の成熟化があるだろう。かつてはただモノを作って売って、儲ければよかった。しかしその儲けた金をどう使うか、ということにはあまりに無関心であり、年金・郵貯を通じてその多くの運用が国に任され続けた結果がいわゆるハコモノ行政に不採算道路網となったのである。世界一の債権国である日本は、世界の中で必要な地域にその潤沢な資金を手配する役割を積極的に担う必要がある。そこから考えれば、若者が資金の周旋スキルを身につけていくのも決して悪いことではない。

もう一つには、時代の寵児たちの影響があると考えられる。金融の技術を武器に年寄りの権力者たちと戦う堀江や三木谷、村上たちの姿は、若者にとって大きな憧れである。最先端の金融の知識や技術は上の世代にはないものであり、特に野心家にとって〝成り上がる〟ためには魅力的スキルに映るのだろう。

 そして最後の理由として、「金融プロモーション」があると考える。これが最も問題である。「金融プロモーション」とはまさしく金融に関する宣伝である。きょうび若者、特に大学生の周りには、それらが満ち溢れている。「株は蘇った」が見出しの日経新聞は言うに及ばず、大学の講座自体にそれらは多い。人気の企業寄付講座では、証券や投信から来た講師が、「これからは貯蓄から投資の時代である」と盛んに喧伝するわけである。そして。「新規公開株、LEITが熱い」と、今さらというようなジャンルを宣伝するのだ。そしてそれを熱心に聴く学生のなんと多いことか。

 投資をすることは決して目的ではなく、自分の負えるリスクに見合った最適なポートフォリオを組むことこそが目指されるべきである。そのなかで、銀行預金、株式、債券のバランスが重要になってくるのだ。これはコーポレートファイナンスにおいても同様である。バブルの時期には株高の勢いを買ってエクイティファイナンスがすでに隆盛を極めていたが、その後急速に衰え、近年再び復活してきたことからもそれは明らかだ。

エクイティファイナンスの例の他にも、バブル時との共通点はいくつもある。銀行の金余りに米国債買い、冒頭の就職における金融人気もその一つである。若者はまずバブルとは何であったかを研究し、大人たちの嘘を見破れるようにならねばなるまい。もし大人たちのブラフがただ好況維持のためのものであれば、そのような経済自体を疑ってかからねばならないだろう。